中国鯨類保護検討会見聞録
2001年3月26~29日まで、上海で行われた中国鯨類保護検討会(Chinese Whale &Dolphin Conservation Workshop)に参加しましたので、その概要、話題等について報告します。ただし、英語の3演題を除きすべて中国語であったため、誤りがある可能性があること、十分な解釈が出来ていないことを先にお断りします。
今回のワークショップは、中国科学院水生生物研究所が中心となり企画されたもので、香港を含めた中国に生息する鯨類の研究や保護活動の報告会です。参加者は、中国各地の研究所、大学、国や市の行政関係、香港Ocean Park、香港大学、世界自然保護基金(WWF)、国際愛護動物基金(IFAW)、中央電子台、新華社通信、人民日報など総勢86名で、日本からはIFAW日本代表の舟橋直子氏と私の2名でした。会場は、外白渡橋のたもとの四つ星ホテル、上海大廈(Shanghai Mansion)でした(写真1)。ワークショップは今回が4回目で、これまでに1986年武漢、1993年南京、1996年北京の順で行われました。前の二つは、海外から研究者を多数招いた国際会議(1986年は10ヵ国が参加したカワイルカ会議、1993年には当館藤本朝海参加)、前回と今回は国内からの参加者が主でした。また、回数を重ねるごとに人数は増えているようです。
3月26日は受付、27日8時30分より水産関係省庁の職員、3名の1時間余りの挨拶に始まり、その後28日18時までに27演題の発表がありました。内容は大きく分けて3つに大別されます。研究者による揚子江の鯨類について、研究者や動物愛護団体の海の鯨類、水産関係の役人による報告です。29日午前中は全体討論を行い、11時30分終了。
基本的な発表形式に変わりはないのですが、全体討論では座長を最前列にして、他の参加者は二列に向かい合って座り、正しく"Face to Face"での話し合いです。昼休みは、中国式でたっぷり2時間。最後は水生生物研究所張先鋒氏が確認事項(別紙)を読み上げて、ワークショップの全日程が終了しました。
揚子江には、ヨウスコウカワイルカ(Lipotes vexillifer)とスナメリ(Neophocaena phocaenoides asiaeorientalis)の2種類の鯨類が生息しています。
ヨウスコウカワイルカは体長230~250cm、体重135~230kgで、体色は灰青色で腹部は白色をしており、分布域は三峡より下流のおよそ1,600kmにおよぶ中・下流域です。現存する鯨種の中で、最も絶滅の危機に瀕しており、中国国家一級保護動物に指定されており、世界自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックにも記載されています。彼らは中新世のクジラ類の特徴を残し、くちばしは細長く多数の鋭い歯をそなえています。現在、飼育下のヨウスコウカワイルカは水生生物研究所(武漢)の成獣オス、淇淇(チーチー)1頭のみです。ストランディングしたところを保護され、飼育期間は21年が経ちました。
スナメリは体長140~165cm、体重30~45kgで、体色は灰色(揚子江のスナメリは、青白く感じました)。大きくずんぐりした先細りの頭と背びれがないのが特徴で、背の中央にはとげのある小さな突起の列があります。3月はじめには、体長約55cmの子供が生まれます。一般に、2~12頭ほどで泳いでいますが、揚子江では20頭以上の群れを記録しています。スナメリは、ワシントン条約(CITES)付属書・に挙げられています。
揚子江の鯨類の生息数は、減少しています。ダム建設や灌漑、船舶数や停泊域の増加、ローリング・フックと呼ばれる違法漁具の使用、工場排水や農業廃水の環境汚染などにより、彼らはひどく傷ついたり、溺れ死んだりしています。1990年ごろの調査結果では、ヨウスコウカワイルカ約200頭、スナメリ約2,700頭でした。今回のワークショップでは、ヨウスコウカワイルカ100頭以下、スナメリ2,000頭以下であろうとのことでした。
やはり話題の中心は、揚子江の鯨類のことでした。中国科学院水生生物研究所からは、淇淇の近況を含めた、ヨウスコウカワイルカとスナメリのこれまでの飼育状況、揚子江での目視調査の概要、日本の水産工学研究所赤松友成博士と共同でスナメリ鳴音の超音波探索(日本水産学会にて報告)を行っていることなど、最も多くの発表をしました。他には、安徽省銅陵ヨウスコウカワイルカ繁殖所のスナメリの飼育について、1998年上海でストランディングしたヨウスコウカワイルカの救出活動(死亡)、スナメリのDNA分析(南京師範大)などがありました。また、全体討論では保護対策のことで、_仁俊研究員(写真 2)と水産省庁職員との激論が印象的でした。
中国にはヒゲクジラ8種、ハクジラ28種(新種1種含む)が生息していること(遼寧省海洋水産研究所)、シナウスイロイルカ(Sousa chinensis)の調査報告(香港Ocean Park、香港大学、広州南海水産研究所)、東黄海の鯨類調査(中国水産科学研究院)、日本や韓国で売られている鯨肉はDNA分析の結果、販売種と異なる可能性があるかもしれないこと(IFAW)、香港でのビーチ・クリーニングやマングローブ保全について(香港政府、香港Ocean Park)の報告などがありました。また、シナウスイロイルカも中国国家一級保護動物に指定されていることを付け加えておきます。尚、水産関係省庁職員等の報告は、予備知識がありませんので、今回は省略します。
発表の合間には、銅陵ヨウスコウカワイルカ繁殖所のこれまでの活動を地元のテレビ局がまとめた映像(同所職員が江ノ島水族館での研修風景もあり)、香港でストランディングしたニタリクジラ救出活動の様子。最初の通報から香港Ocean Park職員が到着するまでにおよそ24時間近くが経過し、すでに死亡していたそうです。どちらも興味深いものでした。
これまでに江ノ島水族館は、中国科学院水生生物研究所に資金援助をしたり、ヨウスコウカワイルカ飼育プール建設協力、および国際協力事業団(JICA)を通じて中国科学院水生生物研究所と銅陵ヨウスコウカワイルカ繁殖所から各3名を合計9ヵ月間、小型鯨類の飼育技術研修を行ってきました。現在、彼らが中国で活躍している姿を見て嬉しくなりました。また、2号館マリンランドでは、ヨウスコウカワイルカと中国科学院水生生物研究所の解説コーナーを常設展示しています。
今回は、それらの御礼を込めた意味での招待でした。本来、堀由紀子館長の予定でしたが、多忙のため代役として私に回ってまいりました。
最後に、本稿を終えるに当たり、ワークショップに招待して頂いた、中国科学院水生生物研究所王丁研究員、その間親切にして頂いた、_仁俊研究員、張先鋒副研究員、中国上海に出張の機会を頂いた、江ノ島水族館堀由紀子館長および同職員一同に感謝致します。
- S. Leatherwood, R. R. Reeves and L. Foster
- 1983
The Sierra Club Handbook of WHALES AND DOLPHINS. 302pp.
Sierra Club Books,San Francisco - D. W. マクドナルド
- 1986
動物大百科第2巻海生哺乳類(大隅清司 監修)
平凡社 - 陳佩薫 仁俊
- 1992
Baiji 危機にあるヨウスコウカワイルカ(粕谷俊雄 編・注)
江ノ島水族館

