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緊急報告:北海道宮島沼におけるマレック病感染マガン
酪農大野生動物医学グループ(酪農学園大学獣医学部)
富川 徹((株)野生生物総合研究所)
大橋和彦・小沼 操(北海道大学大学院獣医学研究科)
はじめに マガンAnser albifrons(国の天然記念物)は、ロシア・カムチャツカ州
などで繁殖し、渡りの途中の秋と春、北海道美唄市宮島沼に約4から6万羽が集結 し、本州の湖でする。したがって、宮島沼における感染症の発生は、わが国のマガン
の保全生物学上、きわめて重要である。
今回、2001年秋に飛来したマガン個体群の1個体がマレック病と診断された。 今後は、各自治体や獣医大学などが、本州以南の各マガン飛来地で情報収集や調査な
どが行われる必要があろう。まず、経緯を報告する。
分担 なお、この著者「酪農大野生動物医学グループ」は中出哲也・中島崇雅(獣医
外科学第二教室:搬入個体の受け入れと治療、外部機関への連絡、申請業務などの担 当)、浅川満彦・中村 茂(獣医寄生虫学教室(野生動物学):体部測定、解剖サンプ
リング、寄生虫学的検査、仮剥製標本作製および各研究者間の調整業務などを担 当)、谷山弘行・三井隆行(獣医病理学教室:病理組織標本の作製と診断を担当)お
よび遠藤大二(放射線学教室:分子生物学的手法によるウイルス学的診断を担当)で 構成されている。また、共著者の大橋・小沼は、遠藤とは別の分子生物学的手法によ
り今回の材料を検討した。よって、より詳細な報文は臨床学、病理学、分子生物学、 ウイルス学、寄生虫学、野生動物学、放射線学などの専門誌などに投稿されよう。
経緯 2001年10月26日、午前8時40分、宮島沼北方の放水路で、富川らが マガンの調査中(環境省委託)、動けなくなっていたマガン(雌成鳥)1羽を発見し
た。そこで、美唄市教育委員会の川守田氏を経由して、すぐに酪農学園大学獣医学部 動物病院にその個体を搬入した(同大学病院カルテ番号9010−02)。中出が
エックス線診断により、右肩関節が脱臼していることが明らかになったのでコーバン にて同部を外固定した。翌日、再脱臼は認められなかったものの、食欲の著しい低下
が生じ、10月29日、午前9時、中島が死亡を確認した。同日、中出は美唄市に死 亡報告と仮剥製標本(獣医鳥類学の教材と寄生虫学的研究における宿主記録として)
の作製申請を提出した。
剖検所見と診断 翌日、冷蔵保存された同マガンを、浅川と中村が体部計測後、剥皮 し、仮剥製標本(登録番号As2631)を作製した。その後、寄生虫標本の採集のため体
部を開腹したところ、退色し種大した肝臓や腎臓、腹壁や消化管における多数の腫瘍 性結節が認めたので(写真)、ホルマリン固定、保存した。同組織を、谷山と三井
が、常法に従いヘマトキシリン・エオジン染色組織標本を作製した。そして、腫瘍組 織所見として、1)大小不同のリンパ様細胞が正常組織との境界を不明瞭にびまん性
に浸潤性増殖をしていること、2)腸管の筋間神経叢にもリンパ様細胞が浸潤してい たことから、組織学的にマレック病と診断された。と同時に、エタノール固定された
肝腫瘍組織と尾部皮膚を用い、大橋・小沼が分子生物学的に検討したところ、マレッ ク病ウイルスの「強毒型」というタイプであることが判明した。
今後の課題 今後、各地のマガンなどの野鳥について、異常個体や死体については、 速やかに関係機関に供与され、特に血液や体部組織についてマレック病の検査が実行
される必要がある。
マレック病ウイルスの感染力が高いこと、感染性の種特異性が低いことから、他の 家禽や野鳥への悪影響が懸念される。従来、傷病マガンは、治療後、道内の動物園で
飼育されている(今回の個体もその予定であった)。しかし、今後は、他の飼育動物 への影響を考え、厳重な検疫などが必要となろう。
また、傷病鳥を積極的に受け入れている一般の動物病院は、ウイルスによる汚染や
院内感染を防ぐべきである。さらに、安易な放鳥は、結果的に感染症の蔓延に手を貸 す可能性もあるので注意したい。
一見健康な野生個体についても、ウイルスに対する抗体のスクリーニング検査を実
施し、一刻も早く感染状況の把握をすることが望ましい。将来的には、感染症の蔓延 予防の観点から、野鳥の飛来地や越冬地における一極集中を避ける工夫もなされるべ
きであろう。
謝辞 獣医学的検討の一部は酪農学園大学獣医学部2001年度学術フロンテイア計 画の一環で行われた。また、緊急度を鑑み本稿を野生動物医学会メーリングリストへ
の投稿をご許可いただいた同学会副会長で運用責任者・坪田敏男教授(岐阜大獣医学 科)、メールに対し多くのご意見・情報を寄せてくださった多くの同学会会員諸兄に
深謝する。なお、日本における家禽のマレック病の発生状況などについては、家畜衛 生試験場ホームページ
http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/fact/2000/marekku.htmlがある。
写真 上:マレック病と診断された野生のマガン個体の仮剥製、
下:マレック病により多数の腫瘍組織が散在する諸臓器(上下とも浅川、撮影)
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