感染症情報

MERS(中東呼吸器症候群)について

MERSは、Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルスによる中東呼吸器症候群のことで、2012年に初めて確認されたウイルス性の新興感染症です。
新型コロナウイルス感染症とも言われ、感染源・感染方法、治療方法などについて、まだあまりよくわかっていません。 2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)もコロナウイルスが原因ですが、異なる病気です。
人の主な症状は、発熱、激しい咳、息切れなどの呼吸器症状で、急速に肺炎に進行する例や、下痢や腎炎も認められています。また、MERSに感染しても、症状が出ない人や、軽症の人もいますが、特に高齢者や基礎疾患のある人で重症化する傾向があります。なお、中東地域からMERSの確定症例としてWHOに報告された患者のうち、症状が悪化して死亡する割合は、約40%とされています(WHO)。

現時点では、国内での発生や流行について、不必要に不安をあおられないように、正確な情報を集めるようにしましょう。MERSの患者の発生が報告されている国※へ渡航される方は、他の感染症を予防するのと同じように、基本的な衛生対策を心がけることが大切です。

厚生労働省のホームページの感染症情報(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html)では、動物などから感染する感染症に分類されていますが、詳細は不明なことが多く、元々はヤマコウモリ由来のウイルスと言われています。
中東地域では、2014年の発生時にラクダ牧場との接触やラクダ肉・乳の摂取などの関連性が報告され、牧場のヒトコブラクダからウイルスが分離されました。これよりヒトコブラクダがMERSウイルス の保有動物であるとされており、感染源の一つとして疑われています。なお、日本国内のヒトコブラクダを調査した限りでは、MERSコロナウイルスを保有している個体は確認されていません(国立感染症研究所)。したがって、現時点では、日本国内のラクダ類の飼育個体からMERSにかかることを過度に心配する必要はないと考えられます。
このウイルスに限らず、他の感染症を予防するために、動物とのふれあいの基本的なルールとして、動物とふれあう前後の手指消毒は必ず行いましょう。動物園の大切な動物に人側の感染症が移らないようにすることもエチケットです。

予防

MERSの発生が報告されている地域においては、咳やくしゃみなどの症状がある人との接触を避けることや動物(ヒトコブラクダを含む)との接触は可能な限り避けることが重要です。石鹸による手洗い、マスクの装着、人の接触部分の消毒が予防となります。
消毒剤は消毒用エタノール、イソプロパノール、次亜塩素酸ナトリウムが推奨されています。

詳細な情報

厚生労働省感染症情報:中東呼吸器症候群(MERS)について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html

国立感染症研究所:中東呼吸器症候群(MERS)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/hcov-emc/2186-idsc/2686-novelcorona2012.html

検疫所:中東に渡航する方へ <中東呼吸器症候群に関する注意>
http://www.forth.go.jp/news/2015/02021049.html

WHO:Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)
http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/ 

国立感染研究所のMERSのリスクアセスメント
Shirato K, Azumano A, Hagihara D et al. Middle East respiratory syndrome coronavirus infection not found in camels in Japan. Jpn J Infect Dis. 2015;68(3):256-8

鳥インフルエンザについて

~正しく知って頂くために、人と野鳥の適正な関わりと共存を目指して~

2010年10月、北海道稚内市大沼でカモの糞便からH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されて以来、同年11月末から2011年3月にかけて、9県23農場約179万羽のニワトリに加え、野鳥でも16道府県で60羽において、日本各地でH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染が確認され、大きな社会問題となりました。
2014年12月時点で、渡り鳥の冬の飛来シーズンに入り、島根県、千葉県、鳥取県及び鹿児島県で採取された糞便や回収された死亡野鳥からH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されるなど、高病原性鳥インフルエンザウイルスが渡り鳥によって国内に運ばれて侵入してきていると考えられる事例が続発しております。

H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスによる感染は、2003年以降、東南アジア、中国各地、韓国、日本において家きんや野鳥で認められるようになり、2005年以降、モンゴル、ロシア、欧州やアフリカにも拡大しました。また、アジアの流行地域で家きんから越冬中の渡り鳥に感染し、春にシベリアの営巣湖沼に北回帰する途中で斃死する事例がユーラシア大陸各地で多数確認されており、大量死も発生しています。高病原性鳥インフルエンザウイルスは、養鶏場で飼育されたニワトリの間で感染を何度も繰り返すうちに病原性を獲得するようになり、出現したと考えられています。したがって、人間の生産活動によって生まれた新たな病原体が自然界の渡り鳥に”逆伝播”し、死に至らしめていることから、ある意味、野鳥は人間生活の”被害者”とも考えられています。2004年、京都府の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生した事例では、ハシブトガラスにも感染死が認められましたが、野積みにされた感染鶏を食べて二次感染を起こしたことがわかっています。
一般の方や野鳥に関わる機会のある方向けに、現在得られている情報・知見等を下記にまとめました。

これを参考として、高病原性鳥インフルエンザウイルスが通常では人に感染する可能性が低いことを理解していただき、弱っているまたは死亡している野鳥を発見した場合や自宅で飼っている鳥が死んでしまった場合の対処方法などについて、正しい知識を身につけていただくようお願いいたします。
高病原性鳥インフルエンザウイルスが国内に侵入すると、家きん飼養農場でも発生しうる状況となります。家きん飼養農家を含む畜産関係者の方々は、飼養衛生管理基準の遵守や早期発見・通報などの徹底に万全を期し、警戒が必要になります。
野鳥などの野生動物、ハエなどの昆虫、人や車両などが高病原性鳥インフルエンザウイルスを運んで感染を広げてしまう可能性があります。その感染拡大を防止するため、野鳥など野生動物への餌付けによる過密化※1と発生現場への安易な立ち入り、接近や現場の取材などを避けて頂くようお願いします。家きん飼養農場での高病原性鳥インフルエンザの発生を防ぐため、敷地内に不用意に立ち入らないようお願いします。立ち入る必要のある際には農場関係者の指示に従って必要な防疫措置をとってください。(※1 鹿児島県出水市では、ツルの保護のため、越冬のため飛来した個体に対する給餌を実施して来ました。2010-2011年、ナベヅルの高病原性鳥インフルエンザが発生した際には、給餌が継続されましたが、給餌の中止によって逆にツルを分散させて感染を拡大させてしまうことが心配されたためです。)

以下のとおり、これまでに野鳥からヒトに感染した事例は報告されておらず、距離感を保って野鳥を観察することは全く問題がありませんし、過度に恐れる必要はありません。野生動物とうまく共存していくためにも、冷静な対応をお願いいたします。

鳥インフルエンザについて

鳥インフルエンザウイルス感染症は、鳥類の感染症(家きんの同感染症は、家畜伝染病予防法では「鳥インフルエンザ」と呼ぶ)で、鳥インフルエンザウイルスは、太古の時代から北方圏のツンドラ地帯でカモなどの野生の水鳥と共生してきており、これらの鳥が感染しても、通常は病気を起こさない関係にあります。しかし、このウイルスが「養鶏場」などで家きんを飼育する環境に入り家畜伝染病予防法原性鳥インフルエンザウイルスです。
誤解されやすいのですが、高病原性鳥インフルエンザウイルス※2とは、決してヒトに対して病原性が高いという意味ではなく、一般に人が感染する季節性インフルエンザウイルスとは異なります。繰り返しますが、高病原性鳥インフルエンザとは、家きんに対する病原性の高い病気です。
※2 高病原性鳥インフルエンザ、低病原性鳥インフルエンザ及び鳥インフルエンザの定義
・「高病原性鳥インフルエンザ」:は国際獣疫事務局(OIE)が作成した診断基準により高病原性鳥インフルエンザウイルスと判定されたA型インフルエンザウイルスの感染による家きんの疾病。
・「低病原性鳥インフルエンザ」: H5又はH7亜型のA型インフルエンザウイルス(高病原性鳥インフルエンザウイルスと判定されたものを除く。)の感染による家きんの疾病(出典:高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針)。
・「鳥インフルエンザ」:上記に該当しない(H5,H7以外の亜型の)鳥インフルエンザウイルスの感染による家禽の疾病。

鳥インフルエンザウイルスの人への感染について

高病原性鳥インフルエンザウイルスは、主に家きんに不活化ワクチンを接種している中国、東南アジア(インドネシア、ベトナム)やエジプトでは家禽での発生が常態化しており、これらの国をはじめとする海外では、感染した家きんと濃厚接触した場合にヒトに感染した事例が報告されています。これまでに、海外では、高病原性鳥インフルエンザが発生した養鶏場で感染鶏の飼育や死体処理に携わり、羽根やフンを吸い込んだり、解体したりするなどして大量のウイルスが体内に入り込んだ場合に、ごくまれに感染することが知られています。
H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒトの患者の発生は、2003年から2014年10月2日までで、16か国に限局して668人の感染があり、そのうち14か国で393人が死亡しています(WHO報告)。しかし、流行地では、市場などで生きたニワトリが日常的に取り引きされ、相当な数の人がその暴露を受けていることから考えると、現時点では、鳥からヒトへ感染する可能性はきわめて低いと考えられます。海外では、ヒトからヒトに感染したことが疑われる事例が数件報告されていますが、患者との濃厚な接触がある程度の期間持続した特殊な例であり、現時点では効率的で持続的なヒトからヒトへの感染の証拠はありません。毎年世界中で流行して多くの人が亡くなる季節性インフルエンザの方がよほど怖いと言えます。
日本では、高病原性鳥インフルエンザにかかったニワトリ等の処分や施設等の消毒などを徹底的に行っているので、通常の生活で感染鳥と接触したり、フンを吸い込んだりすることはまずないことから、人が鳥インフルエンザに感染する可能性はきわめて低いと考えられます。

飼っている鳥、野鳥が死んでいるのを見つけた場合等について

(1) 鳥を飼っている方の留意点
近くで高病原性鳥インフルエンザが発生したからといって、直ちに家庭や学校等で飼育している鳥が感染するということはありません。飼い鳥を野山に放したり、処分したりするようなことはせず、冷静に対応下さいますようお願いいたします。放たれた飼い鳥のほとんどは、生きていくことはできませんし、例え生き残った場合には、生態系に悪影響を及ぼす可能性があります。飼い鳥は、最後まで飼育することが飼い主の責任です。
飼い鳥は、清潔な状態で飼育し、通常通りの衛生管理に努めてください。掃除の際には、手袋やマスクを付けることが望ましいですが、過度に心配する必要はありません。鳥の世話をした後には、石けんで手洗いとうがいをしてください。排せつ物に触れた後にも、しっかりと石鹸で洗い流してください。鳥インフルエンザウイルスもヒトのインフルエンザウイルスと同じで一般的な消毒にとても弱い性質を持っています。ウイルスを運ぶ可能性がある野鳥を近づけないようにするため、飼い鳥を室内で飼育したり、防鳥ネットを使用したり、また野鳥への餌付けを慎むよう気を付けてください。

(2) 飼っている鳥が死んでしまった場合
鳥は生き物ですから、人と同じようにいつかは死んでしまいます。そして、その原因も様々ですから、鳥が死んだからといって直ちに高病原性鳥インフルエンザを疑う必要はありません。高病原性鳥インフルエンザにかかったニワトリは、次々に死んでいくということが知られていますので、原因がわからないまま、鳥が次々に連続して死んでしまうということがない限り、高病原性鳥インフルエンザを心配する必要はありません。
原因がわからないまま、鳥が連続して死んでしまったという場合には、死体を素手で触ったり、土に埋めたりせずに、なるべく早く、お近くの獣医師、家畜保健衛生所又は保健所にご相談下さい。

(3) 野鳥が死んでいるのを見つけた場合
野鳥は、厳しい自然界で、様々な原因で死亡します。飼い鳥と違って、事故に遭ったり、エサを取れずに衰弱したり、環境の変化に耐えられずに死んでしまうこともあります。
また、野鳥は、ウイルス以外にも細菌や寄生虫などの病原体を持っていることがあります。野鳥が死んでいる場合には、高病原性鳥インフルエンザウイルスだけを心配するのではなく、他の病原体についても人に感染することを防止することが重要です。
国内で高病原性鳥インフルエンザが発生しているときや野鳥が異常死しているのを発見した場合には、都道府県、市町村や家畜保健衛生所に連絡と相談をして下さい。野鳥が死んでいるのを見つけた場合には、病原体による感染を防ぐため、死体を素手で触らないで下さい。万一、複数羽の野鳥が異常死している場合には、事故や毒物などによる中毒なども疑われます。
高病原性鳥インフルエンザの発生がない場合でも、死亡している野鳥の種類によっては、高病原性鳥インフルエンザウイルスの検査対象になるため、都道府県、市町村や家畜保健衛生所にご連絡下さい。

(4) 野鳥が弱っているのを見つけた場合
野鳥が様々な原因で弱っているのを発見されることがあります。窓ガラスや電線に衝突したり、エサを取れなかったり、環境の変化に耐えられなかったりして弱り、飛べなくなることがあります。
国内で高病原性鳥インフルエンザが発生しているとき、弱っている野鳥を見つけた場合には、素手で触らないで都道府県や市町村に連絡と相談をして下さい。
 発生がない場合には、各都道府県の担当部局に連絡して下さい。

人と野鳥の関わりについて

日本国内で2004年に79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザの発生が認められ、以降、さまざまな種の野鳥でも感染が見つかっています。中でも、カモなどの渡り鳥が高病原性鳥インフルエンザウイルスを大陸から運んでくることがわかってきており、人と野鳥との関わりも変化してきました。
カモ・ハクチョウやツルの飛来地では餌付け・給餌がそれぞれ感染拡大のリスク要因として指摘されるようになり、その社会的に認知に伴い、人と野鳥との付き合い方が課題になっています。
野鳥への餌付けは、オナガガモなどのカモ類やハクチョウ類など、また希少種の保護を目的とした給餌ではタンチョウ(北海道東部)やナベヅル・マナヅル(鹿児島県出水市)など特定の種を集合させ、感染症の集団発生を引き起こすリスクがあります。
カモ・ハクチョウへの餌付けは、野鳥間、あるいは周辺の養鶏場へ高病原性鳥インフルエンザの感染拡大を引き起こすおそれがあり、風評被害も含め、人々の経済活動に影響が及びます。このような社会状況の変化から、近年、全国各地で高病原性鳥インフルエンザの感染拡大を防止する目的で野鳥への餌付けの禁止措置が講じられています。しかし、本来、野生動物への餌付けとは、感染症拡大の問題のみならず、根本的には、自然界で自活している野生動物の行動生態を改変し、環境への悪影響および人間との軋轢を引き起こすリスクを伴うものであるという理解が必要です。
カモ・ハクチョウへの餌付けは、餌付けが特定の種の一カ所への集合を招き、渡りのルートや越冬場所での滞在期間が変化したり、また飛翔不能個体が本来の生息地とは異なる場所で繁殖したり、行動生態へ影響を及ぼす可能性があります。また、集合した個体の糞や余った餌や投棄された包装プラスチックごみなどによる河川環境の汚染を引き起こすことがあります。特に、糞や餌が湖沼の水質汚濁や富栄養化を引き起こし、さらには魚が生息できなくなるなど生物への影響が報告されています。栃木県大田原市羽田沼では、ミヤコタナゴ個体群の絶滅が危惧されており、ハクチョウへの餌やりによる水質悪化との関連性が指摘されています。
野鳥は、私たち人間が餌を与えて世話をしなくても、自分たちでたくましく生きていける生き物です。大切にしたい存在であるからこそ、過度に干渉せずに、そっと見守ることがお互いの幸せにつながるのではないでしょうか?

日本野生動物医学会感染症対策委員会

環境省 高病原性鳥インフルエンザに関する情報
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/

農林水産省 鳥インフルエンザに関する情報
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/index.html

厚生労働省 鳥インフルエンザ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou02/

国立感染症研究研究所 感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html